小原に伝わる 水晶姫と黒伏太郎
昔々、水晶山にはキラキラ光る水晶がたくさんありました。そこに大変
美しい水晶姫が、お父さんと一緒に大勢の召使いの人々と平和な暮らし
を送っていました。その北方にそびえる黒伏山には黒伏太郎という恐ろ
しい山賊が住んでいて、多くの子分をつれ悪いことばかりしていました。
ある日、黒伏太郎は水晶山のきれいな水晶と美しい水晶姫に目をつけ、
水晶山に難題をもちかけてきました。
それは「山にある水晶を全部よこすか、それとも水晶姫を嫁にくれる
かどっちだ」というのです。
そして時々子分を大勢連れて押しかけてきては、みんなを困らせました。
平和に楽しく暮らしていた水晶山の人々はこの難題には本当に悩まされ
てしまいました。水晶姫のお父さんはあんまり心配したため、身も心も
疲れ果ててついに床についてしまいました。水晶姫は毎日こまった顔を
して悩んでいる父の様子を見かねて、とうとう「私が嫁に行きます」と
自分から黒伏太郎の元に輿入れすることを覚悟したのです。そして母親
が残していったかたみの白無垢を着た水晶姫はお父さんや大勢の召使い
と別れの挨拶をかわしました。すると、突然強風とともに大雨が降り、
と同時に北にそびえる黒伏山が真っ赤な炎をあげて燃え盛ったのです。
その時白無垢の水晶姫が静かに天に召されていきました。水晶山の人たち
はただただ驚き、いつまでもいつまでも涙とともに見送っていました。
その後水晶山は、多くの姫小松がうっそうと生い茂り平和の神として
有名な霊山となり、近在近郷は勿論、遠いところからも参拝者が訪れ、
にぎやかさを極めたということです。
今でも水晶山に姫小松(キタゴヨウ)が多く茂っています。